祖母が住んでいた実家、もうかれこれ何年空き家として放置しているのだろうか。誰が住むわけでもないし、もうこのまま残しておくのもな….
その決断、ちょっと待ってください!本当に大切な家を売ってしまって大丈夫ですか?
使わない空き家は売ることだけが正解ではありません。
- 管理面や税制面で、売却したほうが家族にとってよい結果になれば売却すべき
- 近い将来、空き家を有効に利用できる可能性があれば売却すべきでない
と、空き家を残すことで得になるケースもあるからです。
この記事を読むことで、空き家を売却すべきかどうかの判断がつき、次にあなたが取るべき行動が分かります。今持っている空き家をどうするべきかどうかを悩んでいるあなたはぜひこの記事をご参考にしてください。
1.まず考えるべき空き家を売却すべきかどうか
まずは、
- 空き家を所有し続ける未来
- 空き家を売却する未来
という、ふたつの未来がどう違うのかをみてみましょう。そのためにも、空き家を所有し管理するというのはどういうことなのかをきちんと知っておく必要があります。
(1)空き家を所有し続けるには、管理やお金が必要になる
空き家を所有することにした場合、次のようなことが必要になります。詳細は次の『2.空き家を所有し続けることの問題点』でも述べますが、まずはざっくりと考えてみましょう。
- 空き家を防犯上問題がないように管理する
理由:空き家は人の目がないため、犯罪トラブルに合う可能性が高くなります。盗まれるものはないかもしれませんが、ガラスが割られたり犯罪を起こす場所に利用されたりする可能性があります。もちろん、あなたが持ち主である家に「知らない人が勝手に入る」ということだけでも避けたいものです。 - 空き家を外観上問題がないように管理する
理由:荒れた家や庭は周囲の治安を乱してしまう可能性もあり、近所に迷惑がかからないよう常に整える必要があります。たくさんの落ち葉が放置してある、木が折れたままになっている、門がきちんと閉まらず壊れたままになっている…などのことは、ご近所としても合っては困ること。「誰もきちんと管理していない」という証拠になってしまいます。 - 空き家を所有することによるお金の支払い
理由:管理を他人に任せる場合、その報酬としてお金を支払う必要があります。知人に依頼する場合にも、ある程度のお礼は必要です。お礼・報酬については、話し合いもしなければなりません。また、管理会社を利用する場合には、月々の支払が発生します。また、空き家も土地も不動産としての資産であるため、「固定資産税」が発生します。誰も住んでいない場所に対して、お金を支払い続けることになるのです。
(2)空き家を手放すと、管理やお金の支払いはなくなる
空き家を所有していると、管理やお金が必要になってしまうことは理解いただけたと思います。空き家を手放すことにより、具体的には次の点が変化します。
- 空き家の管理がなくなり、管理の方法について考える手間がなくなる
- 空き家の管理のために使っていたお金や時間が浮く
- 空き家を所有するために支払っていた税金の支払いがなくなる
- 将来まで維持できる財産が減る
- 空き家を売却した場合は、売却による現金が手に入る
空き家には何かしら人とお金が関わるものであったことがわかりますね。「空き家を所有する」ということは、「空き家をそのまま放置しておく」ということではありません。実際に空き家を所有してみないとこのような感覚は理解しにくいので、ご家族に「空き家なのだから何もしなくていいじゃないか」という考え方がいる方には、丁寧に説明してみましょう。
2.空き家を所有し続けることで発生する問題
では、以上を踏まえて空き家を所有し続けることの問題点を、さらに詳しく探ってみましょう。お金の面と管理の面と分けて考えます。ただし、管理についてはお金だけのことではないため、『(2)空き家を管理するために必要なこと』でもさらに詳しく解説します。
(1)空き家を所有し続けることでかかってしまうお金
空き家は既に購入済みであり、ローンなどの未払い金がないことを前提としています。もしまだローンを支払っている最中であれば、これにローンが加わり、他のローンと重複して大きな出費があることになります。
ア.固定資産税
空き家は「不動産」としての財産であり、所有することで「固定資産税」という税が発生します。人が住んでいても住んでいなくても、税金はかかってしまうのです。
【固定資産税とは】
- 土地や家屋などの資産にかかる税金である
- 「地方税」のひとつであり、市町村が課税する
※東京都については「区」の単位となる - 税率は行政が設定する。標準税率は1.4%。
【固定資産税に関係する「空き家」の考え方】
「固定資産税を低く抑えたい場合、更地よりは建物が建っていたほうがいい」
これは、固定資産税に関するひとつの有名な特徴です。固定資産税は、土地だけであるよりも住宅などの建物が建っていたほうが、税率が低いのです。固定資産税の税率は行政により異なりますが、次のようにまとめられます。
住宅用家屋が建っている場合
- 土地にかかる固定資産税は最大で6分の1になる
- 土地にかかる地方計画税は最大で3分の1になる
※地方計画税…都市計画事業や土地区画整理事業の財源となる税金。この事業により、利益を得ることになる地域の土地や住宅に対して課税される。
ただし、平成26年の「空家等対策特別措置法」により、ある条件があてはまる空き家には、このような減税措置が認められなくなりました。「住宅ならなんでもいい」ということではなくなったのです。これについては『3.税制的に空き家を売却したほうがいい理由』において、詳しく解説します。
イ.管理費
空き家を維持、管理しようとする場合、他人の手を借りなければいけない場合があります。その場合、管理のための費用が発生することになります。具体的には次の通りです。
- 空き家の管理を管理会社に依頼する
- 空き家の防犯対策をセキュリティー会社に依頼する
- 空き家の管理を知人に依頼する(有償である場合)
また、誰かに管理を依頼しても「完全に任せきりにする」ということは避けなければなりません。自分で定期的に空き家に通う必要もあります。その際の交通費なども考慮に入れるようにしましょう。
(2)空き家を管理するとは、何をする必要があるの?
空き家を管理する場合、家を「適切な状態」に維持するために最低限行うべきことがあります。「適切な状態」とは、一体どういうことなのでしょうか。
- 外から見て「家が荒れている」という状態にならないこと
先にご説明したような「犯罪に巻き込まれる危険性を少なくする」「ご近所に迷惑がかからないようにする」などの目的があります。 - 建物の劣化が早まらないようにすること
人が住んでいないことで、家の劣化は早まります。窓を長い間空けないだけで湿気がこもったり、頻繁にチェックできないために雨漏りを長らく放置することになって天井や床が傷むこともあります。水道も定期的に使わなければ水道管が傷んだり水が匂うようになってしまうことも。
以上のような内容です。「いつでも人が住めるほどよい状態」を保つ必要はないのですが、それでも次にご説明するような管理は最低限必要です。
ア.自分で管理する場合
空き家は自分で管理することも可能です。ただし、1ヶ月に1度程度は空き家を訪れる必要があり、広さによってはひとりでこなすことが難しい可能性もあります。
- 建物全体の換気を行い、湿気を外に出す(月1回程度)
- 水道管の劣化などを防ぐため、水道の水を1分以上出し続ける(月1度程度)
- 水漏れ、ガス漏れ、雨漏り、外壁の剥がれなどがないかチェックする
- 敷地内の掃除
- 郵便ポストのちらしなどを排除
- 庭の植物が敷地外に出ていないかの確認(落ち葉の季節については確認の頻度を増やす必要もある)
- 室内の簡単な清掃
- 近所への声掛け、挨拶、クレームなどがあった場合の対応
ご自身や奥様がこのような管理ができない場合、空き家のもともとの持ち主であったご両親は可能なのか、その他の人に任せる場合は誰に任せることになるのかなどを話し合う必要があります。
イ.他人に管理を任せる場合
他人・知人に管理を任せる場合は、自分で管理するのに必要なことをそのまま実施してもらう必要があります(近所への声掛け、挨拶などについてはご自身で行うのがおすすめです)。そのため、自分で管理する場合のことを他人にお願いできる代わりに、次のようなことが必要になります。
- 誰に管理を任せるかという人探し
- 空き家の管理として実施してもらうことの内容確認
- 場合によっては契約書や契約書に準ずる取り決めのための書類
- 報酬の設定、報酬の支払い
- 実際に取り決めた管理が行われているかのチェック
- 現在空き家の管理を任せている人が、管理をやめたいと言ったり、あるいはできなくなったりした場合、新しい管理人を探す
管理を依頼するまで、依頼した後にも、やはりある程度やるべきことがあるため、「管理人さえ見つかれば大丈夫」「報酬さえ支払っていれば問題ない」というわけにはいきません。
ウ.管理会社に管理を任せる場合
管理会社に管理を任せる場合、次のようなメリット・デメリットがあります。
【メリット】
- 管理会社は管理のプロであるため、管理が行き届きやすい
- 空き家の持ち主に空き家の管理に関する知識が少なくとも問題がない
- 空き家の管理のために時間を割く必要がなくなる
【デメリット】
- 管理費用がかかる
- 依頼するプランによっては費用が高くなる
- 費用が低いプランでは管理会社だけに管理を任せることができず、自分でも管理に関わる必要がある
- ご近所の挨拶などについてまでは依頼できないことが多い
以上のメリット・デメリットを比較し、自分自身や知人が管理をするよりは管理会社に依頼したほうがいいのか、そうではないかを決定しましょう。
◆管理会社に依頼する場合の費用について
管理費用については管理会社によって差がありますが、以下のふたつのプランが多いようです。参考にしてください。なお、実際に管理会社に依頼する場合には、その管理会社が設定する費用を必ず確認しましょう。
【月5,000円前後】
空き家の外の管理をメインに行うプランだと考えましょう。つまり、家の中のことまでは任せることができません。費用を節約することはできますが、自分自身の管理の手間もある程度あるという認識が必要です。
【月10,000円前後】
この価格帯では、空き家の内部と外部の管理をお願いできるプランが多くなっています。ただし、どこまで依頼できるのかは管理会社により異なるため、しっかりと契約内容を確認するようにしてください。なお、月間に空き家の清掃やチェックする回数を増やしたい場合には、さらに費用が高くなります。
3.空き家を売却する時に抑えておきたい税金のこと
先にご説明した通り、固定資産税には「更地よりも住宅が建っているほうが、税率が低くなる」という特徴がありました。しかし、平成28年度には税制の改正があり、ある条件の空き家については減税が認められなくなっています。そのため、ご家庭によっては「空き家は売却したほうがいい」という決断をしやすくなるかもしれません。以下、詳しく説明します。
(1)平成26年制定「空家等対策の推進に関する特別措置法」とは
「空家等対策の推進に関する特別措置法」は、過去の「どんな空き家でも問題ない」という状況を改善するために制定されています。そのため、次のような空き家については、一般の空き家とは異なる「特定空き家」とされ、改善の勧告がされた場合には、税制優遇措置が除外されることになります。
【特定空き家】
- 現在のまま放置することによって、崩壊の危険などがあり、保安上問題が発生する可能性がある家
- 著しく衛生上の問題がある家
- 適切な管理がなされておらず、大きく景観を損なっている家
- その他、周辺の生活環境を鑑みて、放置されるべきでないと判断された家
つまり、空き家をきちんと管理できない危険性がある場合には、税制的な優遇措置を受けられなくなることも考えなければならないということです。
(2)特別措置法が制定された背景、国土交通省の調査
なぜこの特別措置法が制定されたのでしょうか。理由は、あまりにも放置されたままの空き家が増えてしまったことによります。
- 高齢化が進み住宅を相続する人が増えた。それらは古い家が多い傾向がある
- 相続した古い家は、「空き家にしておく」という人が多い
- 家が古い、リフォーム費用がかかるなどの理由により、賃貸や売却が難しいと考える人が多い
(参考:国土交通省 平成 26 年空家実態調査)
このままではますます問題のある空き家が増え、処分に苦労する家も増えます。現時点において既に管理に問題がある空き家が多く、「空き家問題」として国をあげて取り組むべきことだと考えられています。
(3)「空き家に係る譲渡所得の特別控除の特例」とは
平成28年度税制改正において、さらに空き家の売却を促すような内容の特例が創設されました。
(参考:個人の方 が土地・建物等や株式等を譲渡した場合の平成28年度 税制改正のあらまし(国税庁))
【特例のポイント】
- 相続後3年以内の土地・建物が対象
- 住宅を取り壊して土地を売却する、あるいは住宅耐震リフォームをして建物を売却した場合
- 譲渡所得の3,000万円特別控除が適用される
相続が関連する場合には、このような特例があることも頭にいれておきましょう。
4.今の空き家を売りたくないと思うなら
ご両親にとって、ご実家は人生の長い期間を過ごしてきた大切な場所。「売りたくない」「手離したくない」という気持ちが強く、たとえ管理の大変さやお金がかかることを説明しても、感情的な部分でなかなか空き家を売却しようという結論になれないかもしれません。今後の家族関係を悪化させないためにも十分に話し合う必要がありますが、やはり「売却した方がいいに決まっている」という押し付け方ではご両親も納得が難しくなってしまいます。
この記事にある内容をよく理解し、ご自身のご家族の場合はどうなのかをまとめ、ゆっくりと話合いを進めていきましょう。
(1)誰が何をどれだけやるかの役割分担を明確にする
空き家を持ち続けることにより、「誰が」「何を」「どれだけ」しなければならないのかを具体的に書き出してみてください。最初は管理会社の力を借りず、自分の家族だけで解決できるかどうかを考えて見ます。
例1:空き家の掃除
◆「誰が」:両親が
仕事をしている家族、時間が自由にならない家族、子供は除きます。
◆「何を」:家の通気、掃除などの管理
それぞれどのくらい時間がかかりそうかまで考えてみましょう。ご両親が腰を痛めている場合など、こなせないものがあればそれについてもメモします。
◆「どれだけ」:月1回
頻度は最低限でいいので、月1回を目安に考えます。
◆その他
交通費や移動時間についても書き出します。
例2:管理会社に管理を依頼する場合
空き家の管理を行っている会社をいくつかピックアップし、自分の空き家に適切なプランや、1ヶ月あたりの費用などを書き出します。また、管理会社だけでは不足する部分の管理は誰が補うのかも考えてみましょう。
例3:固定資産税
固定資産税については、過去支払ってきた金額などから確認してみましょう。
例4:売却した場合の金額
もし、ご両親の気持ちが許せば、「試しに査定をしてみよう」と空き家がどれほどの金額で売却できるか、一括査定などで確認してみてください。具体的な金額が出ることで、「このお金があれば解決できる家族の問題」などが解決できることもわかり、売却に対して積極的な気持ちを持つこともできるかもしれません。
(2) 「思い出」を大切にするのなら、家を残す以外の方法を提案してみる
「思い出いっぱいの家を売却したくない」ということであれば、大切なのは空き家そのものではなく、思い出です。思い出をきちんとした形で残すことができれば、ご両親も納得するかもしれません。こんな方法もあるので、試してみてください。
- 空き家の写真を撮影する
空き家のさまざまな場所で写真撮影をしてみましょう。ご両親に声をかけて、ご両親と共に撮影したり、孫と一緒に撮影するなどして、楽し気な写真をたくさん残します。壁に残った傷なども、いい思い出になるはずです。 - 家の一部を持ち出す
建て付けになっている鏡や、ドアノブ、壁に使われていたレンガなど、家の一部を保存しておく方法です。あなたが子供の頃に叱られた壁の落書きを、壁ごと保存してみても。大きさはあまり大きくせず、どこかに飾っておける程度にしましょう。
おわりに
この記事では、思い出の空き家を売りたくないというご両親も納得の上で空き家の売却ができるよう、空き家の管理やかかる税金、空き家以外での思い出の残し方などをお伝えしてきました。
「空き家を所有し、管理するなら何をする必要があるのか」をご家族で具体的に話し合うことによって、所有し続けるか、売却するかという今後の判断をしやすくなると思います。
思い出を大切にしたいというご両親の想いを大切にすることにより解決することもたくさんあるのではないでしょうか。空き家も大切な家族の資産。誰もが納得のいく方法で進めていきたいですね。