家のローンが払えなくなったとき、家を手放す以外にも「家を貸し出す」という方法があります。家を貸し出す場合には不動産会社に依頼することも方法もありますが、「マイホーム借上げ制度」という制度を利用することも可能です。
できれば家を手放したくない、でも貸すのも不安だ…という方がほとんどだと思いますが、この制度にはそういった不安をなくしてくれる特徴がたくさんあります。
この記事では、「マイホーム借上げ制度」についてきちんと理解できるようご説明します。
制度を利用することのメリット、デメリットを踏まえた上で、「自分の場合はマイホーム借り上げ制度を利用したほうがいいのか、利用しないほうがいいのか」を判断できるようになります。
将来、ローンの支払いに困ることがあるかもしれないという方、ぜひご一読ください。
※なお、この制度は基本的には50歳以上の方を対象としていますが、50歳以下でも利用できる特例もあります。
1.「マイホーム借り上げ制度」を使うと家を手放さなくて済む?
マイホーム借り上げ制度は、次のような制度です。この制度を利用することで、より家を貸し出しやすくなり、その間の賃借料収入でローンを支払うことができます。よって、家に住み続けることはできませんが、「家を手放さない」ということは可能になるのです。
売ってしまえば、同じ家をもう一度手に入れることが難しくなりますが、この制度は「一定期間ひとに貸し出す」というもの。経済的な問題さえ解決すれば、再び同じ家に住むこともできます。
対象になるのは一戸建て、共同建て(タウンハウスなど)、マンションなどの不動産です。なお、現在住んでいなくとも問題ありません。
(1)「マイホーム借り上げ制度」とは
ア.移住・住みかえ支援機構を介して、家を貸すことができる
不動産会社を介するのとは異なる、安定的な貸し出しができます。貸し手がつかない場合の保証や契約期間がしっかり決まっているなどの特徴については、後ほど詳しく説明します。
「マイホーム借り上げ制度」とは、一般社団法人 移住・住みかえ支援機構(JTI)が実施している制度です。この社団法人について、詳しくはこちらのリンクをご確認ください。
イ.利用者には賃借料収入が入る
家を貸し出すことで発生する家賃は、「賃借料収入」として家の持ち主に支払われます。家賃の相場は不動産を介するよりも低くなります。
- 募集予定賃料…周辺相場の80%~90%
- 制度を利用する人が賃借料収入として手に入れられる金額…決定した家賃から15%を差し引いた金額
(15%の内訳:5%は管理費用、10%は空室時の保証準備積立及び機構の運営費)
ウ.50歳以上のシニアを対象としている
たとえば、子供たちが独立してしまい、夫婦で暮すには広すぎる家を貸し出したいなど、50歳以上の人々が多く持つニーズに応えられるようになっています。特例があり、50歳以下でも制度を利用することができます。特例については 3.50歳になる前に制度を利用できる方法は? にて、詳しく説明します。
(2)マイホーム借り上げ制度の特徴とは
「マイホーム借り上げ制度」について、さらに詳しい特徴を挙げていきます。
ア. 借り手がつかないときも賃料が保証される
制度利用を申し込み、その後1人目の入居者が決定したそれ以降は、もし住宅の借り手が見つからなかった場合も規定の賃料が保証されます。保証されるのは査定賃料下限の85%程度です。
イ. 契約は3年ごと。将来、再び自分の家に住むことも可能
契約期間が決まっていないと、入居者がなかなか立ち退かない場合や、立ち退き料を請求されるなどのトラブルもあります。この制度では3年ごとの契約更新になっており、3年毎に家をどうするか考え直すことが可能です。
【中途解約について】
原則として3年契約ですが、やむを得ない事情があり住宅の賃貸を辞めたい場合、中途解約も認められています。ただし、「原則3年」であることは間違いなく、希望通りにならない場合もあります。
詳しくは『中途解約と契約の終了について』をご確認ください。
ウ. JTIが間に立って賃貸を行うので、入居者とのトラブルがない
住宅はJTIが借上げ、JTIの責任のもとで転貸されます。そのため、入居者とのやりとりを住宅の持ち主が行うことはありません。家賃未払いなどの入居者とのトラブルがあっても、JTIが対応してくれます。
エ. JTIの事業は国の基金に支えられている
JTIが破綻したらどうしよう…という不安があるかもしれませんが、万が一のことがあった場合は国の予算で運営が守られるので、家が手元に戻らなくなる危険性もごく少ないと考えられます。
詳しくは『「マイホーム借り上げ制度」とは』を参考にしてください。
2.マイホーム借り上げ制度を利用するメリット、デメリットは?
マイホーム借り上げ制度を利用する場合のメリット、デメリットを理解しておきましょう。制度の特徴だけを見ると、利用者にとってよいことばかりのように見えます。しかし、必ずデメリットもありますので、よく理解した上で制度を利用すべきかどうか、検討するようにしましょう。
(1)メリット
- もし「誰も借り手が現れなかったらどうしよう」という不安がない
- 借り手がつかないことで賃借料収入がなくなり、ローンを返済できなくなったらどうしようという不安がない
- 上記のようなことが確実であるため、家を売らなければならない可能性がごく低くなる
- 貸し出した後の手数が少ない(入居者トラブルや、住宅の管理など)
(2)デメリット
- 家賃は相場よりも安くなってしまう(制度を利用できるとしても、ローンを返済できない金額になってしまう可能性がある)
- 制度を利用する前にカウンセリングや予備診断があり、制度のしくみや手順についてきちんと理解しなければならない(丸投げというわけにはいかない)
- 契約完了までは3カ月から5ヶ月程度かかるのが一般的。場合によっては不動産を介するよりも時間がかかる。制度申し込みと同時に賃借料収入が入るわけではないため、この期間についての考慮となる。
以上のメリット、デメリットを踏まえ、考えてみてください。「家を賃貸に出す」というだけなら不動産会社を利用する方法もあります。「マイホーム借り上げ制度を利用するだけの価値があるかどうか」は、必ずご自身で判断すべきです。
もしも別の場所に暮すために高額な家賃を支払うことになれば、この制度を利用してもローンの支払いができません。この制度を利用している間はどこで暮すのかというのは、とても重要な問題になります。
3.50歳になる前に制度を利用できる方法は?
先にお伝えした通り、マイホーム借り上げ制度は50歳以上のシニアを対象としています。ですが、50歳以下でも利用できる場合もあります。
(1)「年齢要件の特例」に該当すれば利用できる
「年齢要件の特例」とは、50歳以下でも制度を利用できる特例のことです。これに当てはまる場合には、年齢が50歳に満たなくともマイホーム借り上げ制度を利用できることになっています。
(2)5つの特例とは
特例は次の5つです。
①再起支援特例:経済状態の悪化により、住宅ローンの返済が難しくなってしまった人のための特例制度。
②定期借地特例:「定期借地」に建てられた住宅を持つ人のための特例。定期借地とは、決められた期間のみ借地関係が成立するもので、期間を延長することはできません。そのため、物件の売却が難しいとされており、この特例を利用することにより賃料収入を得ることが可能になります。
③海外転勤者向け特例:海外へ転勤する方に対する特例です。
④相続空き家特例:相続した住宅に対する特例です。相続しても空き家になってしまう場合などに適しています。
⑤生前相続特例:親子で同居しており、名義は子供にある場合に適用可能となる特例です。
詳しくは『「マイホーム借上げ制度」年齢要件(50歳以上)の特例』を参考にしてください。
(3)「ローンの支払いが難しい」場合には、どの特例が当てはまる?
ローンの支払いが難しい場合は、特例の①再起支援特例に該当します。
家賃が低い、あるいは家賃が発生しない(両親の家など)場所に引っ越しをする
↓
カウンセリングと審査を経て、JTIに家を借り上げてもらう
↓
別の場所に暮しながら、住宅の賃借料収入でローンを支払う
↓
経済状態が改善し、ローンの支払いが可能になったらマイホームに戻る
(更新時である3年毎に判断をする)
といった流れになります。
おわりに
ここまで、マイホーム借り上げ制度のしくみをご説明しました。制度を利用する前にカウンセリングがあり、さらに詳しい理解をすることもできます。ですが、まずはご自身で制度を理解し、自分が利用できるかどうかを判断できるようにしましょう。計画的にこの制度を利用すれば、家を手放したくないという願いは必ず叶えられるはず。3年後、あるいは6年後、9年後など、契約更新の時を節目として、住宅ローンの返済計画もあわせて見直してみてください。